nishi.org 西和彦のコラム

西和彦のエッセイ

#39 外国人観光客の増加をほんとうによろこんでいるのか

2015-10-21

先週仕事で京都に行った。 有名なホテルに泊まって、有名な日本料理屋でご飯を食べた。大学発ベンチャーの草分けともいえる著名な先生に会ってビジネスの話をした。泊まったホテルは有名なホテルで1泊3万3千円(税別)であった。ホテルから料理屋に向かうタクシーで「最近観光客は増えていますか」と聞いたら、「中国の人は増えたけどタクシーは全然儲からない」と言っていた。観光客はバスで集団移動するからだ。タクシーの運転手さんが教えてくれた。「中国人観光客の高級ホテルの宿泊原価は1泊5000円でっせ、お客さん。」僕は愕然とした。旅行代理店がかなりの部屋を抑えていてその原価はなんと5000円だという。この旅行代理店によるホテルのブロック買いが京都のホテルが取れなくなっている理由だそうだ。つまり、中国からくるお客さんがパッケージツアーのお客さんだ。だからご飯をするところも、買い物をするところも京都の中の外国人専用レストラン、外国人専用ショッピングセンターなのだそうだ。結果として今まで京都を楽しみにしていた、いい旅館に泊まっていい日本料理店に行って、いいお土産物を買う人は少なくなったということだ。観光庁ができ海外からの旅行客が増えても、その実態はパックツアーのお客さんが増えているだけ、の現状でよいのであろうか。

東京オリンピックが開かれる2020年。オリンピックを観るというパッケージツアーが押し寄せ、東京都内のホテルがパンクし大変になるのであろう。

文明が栄えたあとに国力が低下した国が最後に選ぶのが観光産業である。つまり、観光立国というのは、かつての大国の最後のビジネスである。ギリシャのエーゲ海のホテル群、ローマやベネチア、ミラノのホテル群。地中海沿岸の諸国。過去の文化遺産はもちろん大切で貴重な資源であるが、自分の住んでいる街がその街だということだけで、世界中からやってきてお金を使ってくれるのであれば、それは観光産業というビジネスとしては申し分ないが、かつてのイギリスやドイツや日本がたどってきた、産業立国とはまったく異なることである。日本も日本の未来に向けて、産業立国を続けるのか、観光立国に切り替えるのか、本気で決心するときが近づいてきている。

#38 週刊アスキーデジタル化とはなんだったのか

2015-10-13

週刊アスキーが紙媒体から撤退し、6月から電子版週刊誌になって、4ヶ月たった。最近会った広告代理店によると有料購読者はたったの6000人らしい。がっかりである。私の言ったとおりになった。週刊のときの発行部数が6万部だったのでこれは10分の1になったことになる。週刊アスキー最終号に、電子版のお試しパスワードをなぜつけなかったのか。これなら週刊アスキー廃刊まで時間の問題であろう。国会で数珠をもってお焼香をした山本太郎のような気持ちになってしまった。

ではどうすればよかったのか、どうしなければならなかったのか。まずとりあえずできることは、無料にすることだ。それから日刊タブロイド新聞を発行することだ。セーラー服、コスプレ、エロ、グロ、ギャンブルなんでもありの日刊夕刊紙、つまり、通勤帰りの人を狙った夕刊紙を首都圏および政令指定都市で発行するのである。そうすれば10万部はいくと思う。いろいろ考えれば生き残る可能性はあるのではないか。そうでないと、週刊アスキーの事業責任者は責任を問われてクビはカウントダウンではないか。角川がアスキーを買った2つの大きなクラウンジュエルは『週刊アスキー』と『週刊ファミ通』ではなかったか。王冠から宝石を取り出してゴミ箱に捨てたのがアスキー出身者でないことを祈る。

#37 賛美歌405番

2015-10-06

尚美学園大学の白石隆生教授が、今日亡くなった。今、弔問から帰ってきたところだ。同じオフィスに同居させてもらって、白石先生は音楽表現学科の学科長で大先輩だった。ご専門はピアノでウィーンで活躍された後尚美学園に着任された。今年の夏、入学試験の委員を務めたときに待ち時間にしみじみとこれからのことを話したときに「自分はどんなに病気が進もうともピアノを教えるということを全うしたい」とおっしゃっていてその心意気に感動したことを昨日のことのように思い出す。ピアノ演奏家、音楽教育者としての白石隆生先生のご冥福を祈りたいと思う。

ご自宅でお別れするときに賛美歌を歌いたかったが、そういう雰囲気ではなかったので、帰りのクルマの中で賛美歌を歌った。

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神ともにいまして 行く道を守り
天の御糧もて 力を与えませ

また会う日まで また会う日まで
神の守り 汝が身を離れざれ

荒れ野を行くときも 嵐吹くときも
行く手を示して 絶えず導きませ

また会う日まで また会う日まで
神の守り 汝が身を離れざれ

御門に入る日まで 慈しみ広き
御翼の蔭に 絶えず育みませ

また会う日まで また会う日まで
神の守り 汝が身を離れざれ
===

最近数年に一度ずつこの曲を歌うたびに涙が上がってきて止まらなくなる。
帰りのクルマでたくさん泣いて先生のご冥福を祈った。でも、たくさん泣いたあとに泣き止んだ自分の気持ちは般若心経を何度も唱えたあとの気持ちとたいへん似ていてなにもない空っぽの気持ちになった。キリスト教と仏教の共通な静かな世界を感じた。

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