nishi.org 西和彦のコラム

西和彦のエッセイ

#108 IoTで日本は負けてはいけない

2017-05-23

パソコンで日本は世界的に負けてしまった。NEC、富士通、ソニー、パナソニック、日立、東芝、三菱電機、沖電気。これらは皆パソコンを作っていた日本の大企業であるが今でも世界で競争できるパソコンを作っている会社はいくつあるのだろうか。パソコンで日本が負けただけではない。パソコンそのものもスマホに負けそうな時代である。

スマホはケータイ電話からはじまった。モトローラがケータイ電話のさきがけをし、ノキアがガラケーで大きなシェアをとったこともあった。今はもうモトローラもノキアもない。アップルとOSを提供しているグーグルが大きなシェアをとっている。仕事上全種類のスマホを持っていて、ガラケーもまだ使っているが、5月10日にソフトバンクの孫さんが「日本のスマホメーカーは全滅してきている」と言った。実際そうなのであろう。日本はスマホの生産でも負けたのだ。パソコンよりも悪い事態である。

スマホの次は何か。私はIoTだと思っている。パソコンからスマホになり、小さくなり、さらに小さくなってIoTになる。あらゆる電子機器がインターネットに繋がる時代になるときに、そういう電子機器を生産する国になることができるのであろうか。それが日本に与えられた大きな命題である。

最近水中ドローンが発売された。おもちゃであるといって馬鹿にするメーカーの経営者は多いと思う。大学の教員をしている人も「あんなものは今の技術で作れる」という人もいる。しかし、そういうことを言うから水中ドローンは中国がはじめて開発をし、発売をし、あっという間に1台20万円で100万台くらい売るのであろう。そうするとあっという間に1000億円を超える中国の企業が新しく誕生するだろう。日本で水中ドローンを作って発売しそうな会社の名前をあげろといわれて私は戸惑う。

IoTもインターネットに繋がるものから、IoEだという人もいる。「Things」ではなくて、「Everything」なのである。そういう時代に日本が存在感を持つ立場になるために必要なことはなにか。それは今業界がやっているような標準化活動ではなく、日本という、またパソコンやインターネットでそこそこの仕事をしたというおごりを取り去った積極的な応用開発の実行と製品化ではないだろうか。ドローンを作れなかった国、水中ドローンを馬鹿にした日本という国に不安を感じる。

#107 IoTのキラーアプリは何か

2017-05-10

東京ビックサイトでIoTの展示会があっていってきた。景品をやるからアンケートに答えよというキャッチセールスがやたらに多かった。展示会のありようも変わったものだ。およそ考えることのできる応用例はほとんど実現していて、商品になっている。大学の取り組まなければならないテーマを全面的にやり直さなくてはならない、と思った。同時に動いているのはわかるけどこれでは大量市場を構築することはできないのではないかと思われる商品が多かった。この世の中で1セットしか存在しないカスタム商品が多かった。

IoTに今求められているのは、IoTならではの大型商品なのではないか。パソコンでいうならば表計算やDTP、インターネットのブラウザ。スマホというパソコンを超える大型商品や検索エンジンや、クラウドというリモートデータベースやアプリケーションのようなものである。万物がインターネットに繋がることによって我々の生活がどう便利になって万人が買う商品は何なのか、それを作った企業がIoTのチャンピオンになるのであろう。パソコンが素晴らしかったのは標準的な仕様のマシンをソフトウェアでプログラムすることによって色々な用途に応用することができたことである。初期のBASIC言語はパソコンの応用開発のツールとして活用されたと思う。そのうちに表計算やDTPなどのキラーアプリが出てきた。IoTは今BASICがパソコンに出現する以前の段階ではないだろうか。

シリコンバレーだけではなく、ぜひ日本からそういう企業が出て欲しいものだ。

#106 僕の人生の課題と発展のプロセス

2017-05-10

15年ごとに仕事が変わっているということに気がついたのは、去年自分の60年をまとめた本を書いたときだった。15歳から30歳はエンジニア、30歳から45歳は経営者、45歳から60歳は中学高校大学の教員という転職の歴史があった。60歳からはもう一度エンジニアに戻りたいということで芸術情報学部から工学部に変わった。あと、この30年間趣味として進めてきた音楽と美術の世界をどう本業と位置付けたらいいのかということを考えてみた。

まず、分野で分けると四つになる。テクノロジーとビジネスとアートである。それに加えて個人の知的生産の技術の構築が大きなテーマになっていることがわかった。次にこの分野それぞれに四つの段階があることに気がついた。最初は「遊び」の段階、次はその「遊び」が「仕事」になる段階。そして仕事の深みにはまっていき経験が蓄積し「学び」になる段階。その次はその学んだことを人に「教える」段階である。

現在、須磨学園で中高生に向けて自己実現をする教養総合科目を構築して実践している。また、埼玉大学大学院ではベンチャービジネスを教えている。東京大学では学部と大学院で情報科学を教えている。それぞれ自分が仕事として取り組んできたことの最後の段階なのであろう。コンテンツやアートについては出版からはじめて映画、音楽、写真などに展開してきたがこれをどういう風にこれから進めていくのかが、問われているような気がしている。

四つの分野が縦軸で、四つの段階が横軸のマトリクスが私の人生そのものだと気がついたのである。61歳からの集中していかなければならない焦点がはっきりしてよかったと思っている。

今になって振り返ってみると、過去にしたことで自分が失敗と思ってきたことが数多くあるが、それらは皆その後の人生のための大切な実験であったのだと思うようになった。失敗と思って後悔ばかりして反省をしなければ失敗は永遠に失敗である。成功のきっかけとしての実験と捉えることによって私は初めてそこから虚心坦懐に学ぼうという気持ちになることができた。えらく高くついた学習体験ばかりの人生であったと苦笑いしている。

#105 インターネット時代の機械翻訳に再びチャレンジしてみたい

2017-05-02

機械翻訳は20年ぐらい前からやっている。しかし、やってもやっても成果がでない。永遠の研究テーマかもしれないといわれてきた。文章を解析して意味を抽出するときに曖昧さがかならず残るからである。しかし、いったんプログラムが文章の意味を正確に把握すればそれを目的とする言語に翻訳することはほぼできるようになった。

高校時代にエスペラントという言葉を学んだことがある。世界中の人々が共通語を使うようになればどんなに便利だろうと思ったのである。一生懸命エスペラント語の文法や単語を覚えたがあとになってすでに米語が世界の共通語になっていたと気がついて嬉しいやら悲しいやら微妙な気持ちになった。国際連合大学の高等研究所で国連の公用語をサポートする機械翻訳システムを作ろうと10年ぐらい努力した。30か国以上の研究者と知り合いいろいろな活動を行ったが結果はあまり華々しくなかった。はやり国連で一番使われている言葉は英語であった。関係者は皆英語を話すのである。建前をサポートするためのシステムではなく、本音で使えるシステムを開発しないといけないということを学んだ。

この度の研究は第一段階として電子書籍を各国の言葉に翻訳するシステムの開発。第二段階をウェブの内容をマルチ言語対応するということをやってみたいと思っている。スマホがこんなに世界的に普及し、地球の人口の約半分の30億台のスマホによって、インターネットにアクセスはこんなにも簡単になった。しかし地球の上には100弱の異なった言葉がある。自分の国の言葉しか話せない人も多い。多くの人がインターネットにアクセスできるように今、問題は言葉の違いである。ある言葉が読めないとその言葉でかかれた知識は理解不能である。インターネットで使うことができる機械翻訳は不正確なものが多い。ここのところを解決して世界中で知識の共有が可能になるようなシステムを作ってみたい。

#104 ユビキタスコンピューティングとIoTの違い 私論

2017-05-02

何年か前、ユビキタスコンピューティングという言葉が流行った。世界的にもてはやされた概念であったが、今はIoTに変わったような雰囲気だ。

ユビキタスコンピューティングはあちらにもこちらにもコンピュータが存在し、それらがネットワークで結合して動くというイメージであった。そのことについて誰も反対はしなかったし、不可能だとは思わなかったが、実際にそういうことはあまり起きなかったような感じがする。しかし、IoTがユビキタスと一番変わっているところは「クラウド」という概念が入ってきてIoTの機器がインターネットを通じてクラウドとデータをやりとりし、そのクラウドのデータを元にしてAI的なソフトが動いて、その結果がまたインターネットを通じてIoT機器やその他のIoT機器に作用するというのが最近のIoTの流れのような気がする。しかし、IoT機器は千差万別、クラウドのAPIも千差万別であり、シングルベンダーがソリューションを提供することができるのは例外といってもいい。あらゆるレイヤーでマルチベンダーのIoTシステムを現在の動いている情報システムと共存させながら発達させていくには何が必要かということが求められている。業界の人たちの標準化の活動の効果がどれぐらいあるのかも興味深い。

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