nishi.org 西和彦のコラム

西和彦のエッセイ

#157 スパコンの次の可能性を考える

2018-10-24

昔パソコンを512CPU繋いで1テラflops実現して日本一になったことがある。1位はほんの一瞬で、NECや富士通に抜かれてしまった。ベンチャー企業も出現し、ここがNECや富士通を抜いてしまった。もはや競争は国家レベルの資金と先進の技術がないと勝てないようになってしまった。我々はスパコンの世界から撤退しなければならないのか、考えてみた。まだ可能性は残っていると思う。大きなコンピュータールームに鎮座する大型スパコンではなく、小さくまとまったポータブルなスパコンで飛行機や潜水艦やトラックに乗せてどこにでも移動できるものを考えてみたいと思う。飛行機だけでなく人工衛星にも乗るようにしたい。そのための対放射線抵抗力がある半導体の研究も必要であろう。

マルチコアのCPUが流行っている。6コアとか8コアが当たり前になって、多いものではAMDの32コアもある。これらのコアのうちいったい何コアが使われているのか。なにかのペーパーで2コアだと書いたものがあった。がっかりである。マルチコアのプログラミング環境を整備してアプリケーションを増やすということもしなければならない。合わせてこの問題に取り組んでみたい。

#156 イスラエルと似た国はどこか?

2018-10-24

東大の私のラボとイスラエルの大学とが共同研究する計画があって、テルアビブに訪問した。立派な大学、立派な研究所、立派な学部長、立派な博士課程の学生。すっかり打ち解けて食事に招かれ研究内容以外のことの話題についても意見交換をした。イスラエルからの立場から見てイスラエルに似た国はどこか、という質問に私はシンガポールという答えがかえってくると思っていたが、そうではなかった。かえってきた答えは「インド」であった。両方ともインドから平和的に国土を譲り受け国家として独立したという点だそうだ。イスラエルは世界からユダヤ人が集まり国を作ったという意味ではインドとは違うが、その考え方は納得できるものがあった。シンガポールのことをどう思うか、という質問に対してもちろん、イスラエルの方が自慢できることが多いと言っていたが両方の国とも成功の一番の大きな理由は国民に対する教育である、ということは認めていた。こんなことをはっきり言い切ることができるひとが日本に何人いるだろうか。平和ボケした日本と日本の政治家の現在をみるにつけ、イスラエル人の国家感に学ばなくてはならないと思った。「そうしなければ国が滅びる」と言い切ったイスラエルの知り合いのことを私は国粋主義者とは思わない。彼は愛国者である。

#155 ロールスロイス ファントムに思う

2018-10-24

縁あってロールスロイスのファントムVIのボロ車を手に入れた。表面的には磨かれてたり掃除されていてピカピカであったが、ガレージにいれてバラしてみるとさすがに47年前に作られたクルマで床は錆びて穴があいていて、エアコンのファンは固まっていて回ってなく、これはちゃんとレストアしなければ、ということでバラバラにしてみた。さすがに一皮むけば中身はボロボロで、ガレージのオヤジに「西さん、覚悟してください」と、いわれてしまった。イギリスのロールスロイスアーカイブに問い合わせて、車体番号にあった資料を入手し、数千点の部品リストやメンテナンスマニュアルを読み始めた。さすがにロールスロイスである。このころの日本の自動車はペコペコのボロボロ。それに比べてなんとすばらしい作りなのかとびっくりした。

ファントムは今は8代目であるが、2002年にロールスロイスがBMWに買われて以来、7代目と8代目が出ている。その前は1代目、2代目が似ていて、3代目はびっくりの12気筒。実はこのロールスロイス ファントムIIIがファントムの中では一番の名車であると、私は個人的に思っているが、それはともかく、4代目、5代目、6代目がもう一つのグループである。そのことをそう書いた本も存在している。そういうことを考えるとファントムVIはある意味ロールスロイスの最高機種の完成形であるといえよう。しかし、BMWは時間をかけてゼロからファントムを再定義しようとした。今の東京で街で見かけるロールスロイス ファントムはみな、このタイプである。もちろん試乗もしたがやはりBMWの最高機種にロールスロイスという名前とラジエーターグリルとマスコットをつけたような気がする。イギリスのグッドウッド工場でイギリス人によって作られているが、ドイツ人が設計の指揮をしたクルマである。僕がロールスロイス エンスー クラブの幹部にそのことを言うとべんらんめい調の英語で「それをいっちゃぁおしめぇよ」とたしなめられた。約1メートルくらいのロールスロイスの本を読んだ感想として、ファントムはIV,V,VIで3代かけて完成の域に達したのであるから、BMWのロールスロイスもファントムIXがでるまで注目し、IXの出来いかんで買うか買わないかも含めた最終的な評価と決断をすればいいのではないか、ということになった。

ということで私のファントムVIのレストアの方針はファントムVIが作られたときの形に復元するのではなく、ファントムVII, VIIIの進んだ部分をいかに多く追加することができるかをテーマにしようと思う。何年かかるかわからないが、ガレージのエンジニアに任せきりにしないで自分もやってみようと思う。完成した頃にはファントムVIIIが発売されていよう。自分が気に入らなかったら勇気を出して、12気筒のファントムIIIを買うことにする。

#154 中国とEU(その2)

2018-10-16

EUと中国がどうなるかについてずっと考えているが、論点の中心は「一帯一路」になるような気がしてきた。つまり、中国がユーラシア大陸においてむかしのシルクロードの現代版を推進しようとしている。このことに対するEUの反撃、もしくは反対工作がこれから顕在化するのではないかと思われる。それのリトマス試験紙がイギリスのブレグジットである、と考えていいのではないか。これからEUの各国が一帯一路に対してどのようなスタンスでいるのか、ということが問われる。一帯一路に協力的な国は中国と同時に攻撃されて経済的に厳しい立場に追い込まれるような気がする。それのトップがドイツであろう。フランスは中立でスペインは逃げ腰で、東ヨーロッパやトルコがどう出るのかが興味深い。また、アラブの各国とイスラエルとアメリカとの関係がここでも問題になってくるのではないか。日本でこういう論調のひとはいないので、地道に情報集めをしていくしかない、と思っている。

アメリカ・イギリスと敵対する中国の未来は真っ黒ではないか。間違いなくソ連が辿ったような破綻への展開はあるだろう。リアリズムはリベラリズムに負けるのだ。その横でインドがコンスタントに追い上げてきている。インドの人口増加を賄うだけの食料供給が足りている限り、インドは大丈夫なような気がする。もうひとつインドは中国のような急速な経済発展を選ばないようだ。ゆっくりバランスのとれた成長を50〜100年かけてしたいと発言した政治家もおられた。しかし、日本からは離れすぎている。日本の対中国、対インドの長期的なスタンスをどう考えていったらよいかが、安倍首相の次の政治家に求められる国際的な判断になるのであろう。

#153 追悼 ポール・アレン

2018-10-16

マイクロソフトの初期の製品を全部考えた天才プログラマー ポール・アレンが亡くなった。65歳だった。どんな人だったかというと、本田自動車を作った、本田宗一郎さんと、ソニーを作った井深大さんを足したようなエンジニアだった。それだけでなく芸術に対する見識もなかなかのもので、自宅に自分のためだけの絵画ギャラリーとシアトルのダウンタウンに音楽博物館を作った。その意味で岡本太郎的なところもあったような感じだ。

またそれだけでなく世界最大級の200メートルのヨット「オクタプス」、50メートル級の潜水艦も建造した。むかし日本の16気筒エンジンを乗せた世界最高速のレーシングカーを作ろうと、提案にいったことがあるが、クルマを作るのはもう飽きた、といっていた。びっくりした。今をときめくZOZOの社長のやっていることを今から20年前にすでにやっているひとがいた、ということだ。

ビル・ゲイツとは会社が上場してからだんだんうまくいかなくなって、ポール・アレンの方がマイクロソフトから離れていったような感じだった。ぼくは幸いにもずーっと仲良くしてもらって、ありがたかった。自由なクリエイティビティを持った天才と、マイクロソフトをちゃんとした企業に育てていきたいとと考える経営者との相克は横でみていてつらかった。それぞれの言い分がそれぞれわかったからである。冥福を祈りたい。

#152 2018年後半からはじめる新規プロジェクト

2018-10-02

10月になった。後期にはじめる新規プロジェクトを決めたので、決意を持って公表したい。

1.人工知能システムの開発。IoTラボなのに人工知能もやらざるを得ない状況になってきた。最後発の人工知能プロジェクトであるが、MITのミンスキー博士にいただいた最後のテーマに真剣に取り組もうと思う。「コンピューターに常識をどう教えるか」ということである。

2.省電力アンテナを100本以上積んだ超小型人工衛星の開発。

3.メニコアプロセッサにおけるスケーラビリティの改良。これはイスラエルの大学との共同開発プロジェクトである。博士課程の学生を受け入れ。

4.ハードウェアとソフトウェアを組み合わせてデータベースソフトウェアの速度を1000倍くらいはやくする試み。詳細は秘密。

5.フルウィンドウズベースのスマホの開発。まず機能モデル。次にそれに使うワンチップ半導体。台湾のメーカーと共同研究。

などである。

#151 アメリカとヨーロッパとの本当の関係はいかに

2018-10-02

アメリカが全力で中国を攻めている。日本はアメリカのいうとおりのことをしているようだ。だから日本はいじめられない。中国が売却した7兆円のアメリカの国債は勝手な予想だが日本が忖度して買ったのではないかとみている。

では、ヨーロッパとアメリカの関係はアメリカの中国叩きにおいてどうなるのか。考えられるシナリオはもちろん二つ。

一つ目はヨーロッパとアメリカが協力して中国を叩くということ。二つ目はヨーロッパはアメリカに協力しないということ。この二つのどちらかになる。はっきりしているところからいうと、イギリスはEU離脱で中国叩きから距離を置くようになるのではないか。習近平がロンドンに来たときに嫌々ながらもてなしたことは記憶に新しい。EUの中心はドイツである。ドイツが牛耳っているヨーロッパ中央銀行(ECB)は米中の貿易戦争は、アメリカが負けるというレポートを出している。中国にはドイツのクルマがたくさん走っており、フォルクスワーゲン・アウディも中国ビジネスによってものすごく儲かっている。アメリカはこれが憎くてしかたがないのではないか。ドイツを中心とするEUが中国の味方をすれば、アメリカはEUとも貿易戦争をはじめるであろう。そうすればイギリスはさっさとEU離脱になるだろう。

アメリカの保守層は日本人が考えるよりもはるかに心配性である。将来的に国家の敵になる国があれば小さいうちにやっつけるというのがアメリカの政治の伝統であった。古くは日本。戦後はソ連。最近ではイラク。そして中国。中国がよくても悪くてもそんなことは関係なしにこの地球で無視できない存在になったということが、今回のアメリカの中国叩きの理由ではないだろうか。日本のように儲けたお金を全部アメリカのために使って、ときどきロシアとこっそりプロジェクトをやるぐらいがいいのではないだろうか。今回のアメリカによる中国叩きで究極のアメリカ側につかないで、中国にも貸しを作り、ロシアとも仲良くして、のらりくらりすることができる政治家が求められている。今の政府はそういうシナリオで動いているような気がする。ヨーロッパはどういう考えでどういう態度をとるのかを私は注意深く観察していきたい。

#150 貿易戦争の次はサイバー戦争

2018-10-02

アメリカの中国に対する取り組みは高関税をかけて中国経済を失速させようとすることに間違いはない。次の段階は中国のサイバー破壊行為に対するアメリカの反撃になるのではないかと予想する。11月の中間選挙に向けて中国がアメリカのネットワークに向けてサイバーアタックを仕掛けているという発言がトランプ大統領からあった。これを「たいへんだ!」と報道している日本のメディアは少ない。私は貿易関税よりもサイバーセキュリティの方が、大きな騒ぎになるのではないかと思っている。

中国やロシアや北朝鮮のサイバーアタックについてアメリカは国を挙げて防衛する姿勢でいるが、日本はどうだろうか。経済産業省の外郭団体がやっているぐらいのものであろう。それでは取り組みは弱すぎる。内閣総理大臣が大号令を出し、国家の緊急事態としての認識を持ち、すべてのパソコン、サーバ、スマホが対策しなければならないのではないか。まあアメリカが、騒ぎ始めると日本も後追いでするからいいか。しかしそのときには情報が全部抜かれてフェイクニュースが飛び交い、マスコミはたいへんなことになっているのではないか。私は使い終わったらパソコンはネットワーク接続を物理的に遮断している。

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